お侍様 小劇場 extra

     “閑話休題・春うらら” 〜寵猫抄より
 


犬は嗅覚と聴覚がよすぎる反動
(?)か、
あんまり眸はよくないと言われてますね。
そうまであれもこれも敏感だと疲れてしまうので、
バランスを取るべく、ぼこぉと能力的に欠けているとかで。
色盲だから信号の色の見分けができなくて、
点灯している位置と周辺の人の気配とで、
渡っていいのか危ないのかを判断している。
なので、犬が見ているときは、
赤信号なのに渡ったりしちゃあいけないのだと、
イベント主催で有名な某様がコラムなんかで言ってらしたのを思い出します。
いえ、どこまで本当かは知らないままですが。
(こらこら)

それに引き換え、
猫は、その目の虹彩の絞りで時間が分かると、
忍者や戦国武士が時計代わりにしたくらい、
随分と高機能な眸をしておいで。
鏡の反射光を壁に躍らせると、
いつまでもいつまでも飽くことなく目で追ってくれるほど、
ひょひょいと動くものへの感度は、そりゃあもうもう抜群で。
テレビ画面もちゃんと見えているらしく。
猫好きな人がじゃなく、猫ご本人が楽しむため用の、
小鳥や小動物の遊ぶ動画を集めたDVDが何種類もあるといいますしね。

  「…お料理番組なんかは、じ〜〜〜っと見据えてたりしますね。」
  「食べたい料理へのリクエストではないのか?」
  「それはどうでしょうか。」
  「?」
  「先だっては、有名なパティシエさんが、
   そりゃあ見事に生クリームを泡立てていらしたの、
   じ〜っとじ〜っと見つめ過ぎて、しまいには眸を回しておりましたし。」

泡立て器が軽快に回るのを、集中して観ていたその末のことなのは明らかで。
倒れ込んだの受け止めた、こちらの手のひらの上で、
みゅう〜〜と か細く鳴いた様子の、微妙に頼りなかった様が、
可哀想なのに可愛くもあって困りましたと。
青玻璃の双眸を柔らかくたわめて微笑む七郎次であり。
そしてそして、

 「みゅう〜〜〜。/////////

自分の恥ずかしかったことの話題だなと、何とはなく気づいたか。
お向かいに座す勘兵衛のお膝にいた当の久蔵、
ちょみっとばかり、そのふくふくとした頬を膨らませ、
不満でございますというお顔をして見せたものの、

 「ほ〜ら、久蔵。上総屋のイチゴロールだよvv」
 「みゃんvv」

甘い匂いとそれから、
勧めるおりの七郎次の何とも優しいお声に惹かれ。
ついつい ご機嫌さんなお顔になって、
ぱくりと差し出されたフォークに食いついてるから世話はなく。

 「美味しいかい?」
 「みゅう〜〜〜vv」

小さな両手で口許塞ぎ、
頬張った生クリームの甘さや舌触りを堪能する様子の、
何とも幸せそうであることか。
そしてそして、

 「〜〜〜〜。////////
 「七郎次。眸をつくから、フォークは降ろせ。」

こちら様も、相変わらずなようでございます。
(笑)






        ◇◇◇



四月といえば、桜の季節。
それからそれから、日本では新年度でもあって。
新入生や新社会人が、はれの門出を迎えもするし、
色々と制度や届けも切り替わる時期。

 “えっと、固定資産税の資料はこれで全部かな?”

島田せんせいは作家である前に、
親から引き継いだ家作があれこれある身の上で。
土地だのビルだのアパートだの、
いわゆる不動産に関しての、
その年その年の評価が出るのが四月なので、
その通知を見てののち、
固定資産税というものを 一括か分割かで収めねばならなくなる。
そういった財産や納税の管理も、
敏腕秘書殿が引き受けておいでで、

 「みゃあ?」
 「ああ、これ。印鑑で遊んじゃあダメ。お手々が朱肉で真っ赤になるぞ?」

テーブルの上、今日はPCじゃあなくの、
あれこれと書類やコピーやを並べていた七郎次。
その手元から転がってった細長いものへ、
早速 おややと気がついて。
小さなあんよを揃え、遊んでもらえるまでをいい子で座って待ってたはずが、
前足でのおっかなびっくり、ちょちょいと捕まえかける仔猫に気づき。
こらこらいけませんと窘めつつ、返してねと取り上げる。
家事のあれこれも手際がよくて、
各方面へのご挨拶やら社交のあれこれも落ち度なく。
その上、こういった届け出ものの管理もきっちり納めておいで。
彼に何かあったら勘兵衛先生はそのまま生きてゆけなくなるのじゃあなかろうかと、
知己の皆様揃ってお言いの敏腕秘書殿ではありますが、

 『なんの、勘兵衛様あっての私でございます。』

他の方の元であったら…こうまでも、
頑張ってあれこれ出来るようになろうなんて思いはしなかったと。
さばさば笑って言ってた秘書殿であり。

 『………。』
 『いやあの、
  そうまで勘兵衛様が頼りにならぬと言いたいんじゃあなくってですね。』

そんなオマケがあったこともともかくとして。
(苦笑)
さぁさ、今日は車でお出掛けと、シックな革のキーケースを手にし、
壁にかけてたこのごろの上着、
薄手のたらんとした生地のカーディガンをひょいと羽織って、

 「勘兵衛様、区役所のほうへ行って参ります。」
 「ああ、済まぬな。」

ついでに買い物もして来ますが、何か要りようなものはありませんか?
玄関までへと出て来てくださった御主へ、
ご近所の商店街ではないのでと、
執筆にお使いの原稿用紙だのインクだの、足りなくなってはいませんか、
そうそう、雉子堂の塩豆はいかがです? お好きだったでしょう?と。
おやつのリクエストとかありませぬかと、訊く彼へ。

 「いや、何もない。」

いやに厳かに応じた御主であり。

 「勘兵衛様?」

それこそ たかがお買い物へ、なんて畏まってますかと怪訝に思えば。
「何も要らんから、一刻でも早よう戻って来い。」
「は?」
がっしと手を取られてのこのお言葉で。

 「よいな。余計な、寄り道は厳禁だ。
  いや、いっそ儂が運転手を引き受けようか。」
 「か、勘兵衛様?」

大体、あの区役所前の商店街は、
妙にチャラチャラした若いのばかりが店番をしておる。
娘らを引き招くためかと思うておったが、

 「虹里屋の二代目は、何とも粘着質な見ようでお主を眺め回しておったからの。」
 「そうですかぁ?
  あの若旦那、あれでもスカッシュの関東チャンピオンですよ?」

スポーツ店の跡取りだからって、何も自分まで鍛えなきゃなんないこともないのにと、
そんなお話をしてただけですようと。
それにしたって、随分と昔の話を持ち出す御主であることへ、

 “う〜んと…。”

どこまで本気でどこからが冗談か。
どっちにしたって明らかな嫉妬を乗っけたお言葉には違いないと、
そういう点へと想いが至り、

 “う〜んと…。/////////

以前だったら、こっちもこっちで適当に冗談ぽく言い返せていたはずが、
どういう反応をすりゃあいいのやら。
こちらも微妙に戸惑っている、金髪美形のお兄さんだったりし。


  「早く出掛けんでいいのか?」
  「どなたのせいですか。/////////


  お後がよろしいようで。








   おまけ


サラリーマン家庭じゃあないからこその、
自分で全部管理体制の島田さんチなので、
原稿料や講演料、印税などなどの収支管理も七郎次さんの担当であり、

「車検や保険の更新だの、他に届けることはなかったかの?」
「そうですねぇ…。」

これは何も、自営業だの今時だのに限った話じゃない、
広報や何や、こっちから積極的に調べないと、
様々なサービスや、はたまた減税対象だったことを見落としての、
無駄に損をしてしまう時代。
時事ネタもたまには扱うせいか、そんなことをお聞きの御主へ。
見落としはないはずですけれどと、
届けのあれこれを頭の中で浚ってでもいたらしい秘書殿が、

  「…。/////////

一体 何ごとへ行き着いたやら、そのお顔を唐突に赤く染める。

「?? 如何した? いきなり赤こうなって。」
「いえあのその。/////////
「七郎次?」

果たして言おうか言うまいか、
後になって思えば、内容よりも行為へのためらいに、
ついつい逡巡していた彼だったらしいのが、
妙に様になっての躊躇に見えて。
どんな大事を思い出した彼だろかと、
ともすれば身を乗り出しかねない様子で見守っておれば、

 「あの…。//////

もじもじ、間になってたコタツの天板を見下ろしたまま、
その実、どっこも見ないまま。
あのあのあのと、恥じらいまくったその挙句、
ぽつりと小さなお声が紡いだ一言が。

 「実はあの、赤ちゃんが…。/////////

あああ、微妙にタメすぎましたね。
スパッと言うから“バカを言え”と笑えること。
なのに、ついつい。
艶ごとがらみな話題なので、つい含羞みが先に立ち、
その“スパッと”が出来なんだと。
そんな間の悪さへの後悔も含めての、
いやはや失敗失敗と、笑って誤魔化そうとしかかったところが、

 「そうか出来たか。でかしたぞ、シチ。」
 「はい?」

うんうんと満足そうに大きく頷いている誰か様。
あんまり根を詰めてはいかんだの、
身体の線が出るほどキツめの服は避けよとか、

 「そうそう、背伸びもかけっこも禁止だ。よいか?」

と、こちらはお膝の仔猫様へと話しかけ、

 「久蔵、お主もこれで兄だ。しっかりせねばの。」
 「みゃあvv」
 「あの〜〜〜。/////////

こらこら、このユニットに“ツッコミ”はいないのか。
(笑)




  〜どさくさ・どっとはらい〜  09.04.12.


  *なんてこたない、小話集でございます。お粗末さまでした。
   私事にて ちょこっと気落ちしてしまっていたので、
   発奮を兼ねての自己高揚。(そんな言い回しはありません、もーりんさん。)

   おまけに付け足したのは、
   実はこちらでも考えていた“エイプリルフール”ネタを、
   今頃になってのご披露ですvv
   オチが不発だったのでUPするのを辞めたのですが、
   どさくさ紛れに投下です。
(こらこら)
   相思相愛なんだとの確認前だったら、案外さらりと言えてたかも。
   それが今じゃあ、どんな羞恥プレイですかというよな文言。
   今のシチさんにしてみれば、
   相当頑張って“えいっ”と口にした、
   そりゃあ恥ずかしい一言だったでしょうにねぇvv
   大タヌキ相手じゃあ敵おうはずがないってもんです。
(苦笑)

   まだ当分は恥じらってそうなシチさんなので、
   妙に楽しいシリーズと化してます。
   頼もしいシチさん、男らしいシチさん推奨の方には、
   重ね重ね 相すみませんです。(まったくだ・笑)


  *それとそれと!
   藍羽様がご自身のサイトの方で、
   何だか楽しい仔猫のお話を書いてくださってますvv
   (嬉しいようvv
    萎びてた心がどんだけ癒えたか。ありがとうございますvv)

   日記の中にリンクの入り口を張ってくださってますので、
   先日のウチでのコラボなお話が全然OKだった方は、
   どうかお運びくださいませですvv

    藍羽様のサイトはこちらですvv→


めるふぉvv
めるふぉ 置きましたvv

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